ペットボトルやプラスチック容器を分別ゴミに出したあと、それがどんな旅をしてどう生まれ変わるのか。正直、考えたことがない人がほとんどだと思います。私自身、転職エージェントの仕事を始めた頃は何も知りませんでした。
はじめまして、フリーランスでキャリアコンサルタント兼業界ライターをしている佐久間翔と申します。化学・素材・リサイクル業界の中堅・中小メーカーを年間100社以上取材していて、地味だけど社会を支える地方ものづくり企業に光を当てる仕事をしています。
この記事では、廃プラスチックの「その後」について、業界の数字と現場の実感の両方から書いていきます。読んだあとに、街中で見かけるリサイクル工場や、ニュースで耳にする「サーマルリサイクル」みたいな言葉の解像度が変わるはずです。サステナビリティ系の仕事に興味がある人にも、業界の地図が見えてくる内容になっています。
まずは数字から入ります。地味ですが、ここを押さえないと業界の構造は見えてきません。
プラスチック循環利用協会が公表している最新のマテリアルフロー図によると、2023年の日本国内の廃プラスチック総排出量は769万トンでした。前年から52万トン減っています。
769万トンと言われてもピンとこないので、ざっくり換算すると500mlペットボトル約3,800億本分。日本人ひとりあたり年間60kg強の廃プラスチックを排出している計算になります。
この廃プラスチックは、大きく分けて2つの出どころがあります。
産業系の方が量は多く、廃棄ルートも比較的整理されています。家庭から出る一般系は、自治体の分別回収を経て処理場に集まる流れです。
同じ統計で、有効利用率は89%と発表されています。「日本のリサイクル率は世界トップクラス」と聞いたことがある人もいると思います。
ただ、この数字の中身を分解すると、ちょっと違和感が出てきます。
「リサイクル」と聞いて多くの人が想像するのは、たぶんマテリアルリサイクル。つまり、回収したプラスチックを物理的に砕いてもう一度プラスチック製品に生まれ変わらせる、あの流れです。
でも実際にその方法でリサイクルされているのは全体の22%しかありません。最大の比率を占める64%は、燃やして熱を回収するサーマルリサイクル。これを「リサイクルと呼ぶかどうか」が、実は業界で長年議論になっているテーマなんですよね。
業界の話をする前に、3つのリサイクル方式の違いを押さえておきます。求人ページの「事業内容」を読んでも、この区別がついていないと何の会社かよく分からないことが多いんです。
使い終わったプラスチックを、物理的な処理で再びプラスチック原料に戻す方法です。
具体的な工程は、回収 → 選別 → 洗浄 → 粉砕 → ペレット化、というのが基本の流れ。最後に出てくる「再生プラスチックペレット」が、新しい製品の原料として使われます。
メリットは、化学反応を使わないのでエネルギー消費が比較的少ないこと。デメリットは、樹脂の種類ごとに分別が必要で、汚れや異物の混入に弱いこと。あと、再生を繰り返すと品質が落ちていきます。
国内のリサイクル業界の中で、技術力が分かりやすく差別化につながるのがこの領域です。50種類以上の樹脂に対応できるとか、特定の難リサイクル材を扱えるとか、各社の強みが出ます。
プラスチックを化学反応で分子レベルまで分解し、原料に戻したり燃料に変えたりする方法です。
主な手法は4つあります。
マテリアルリサイクルでは扱えない複合素材や汚れたプラスチックも処理できるのが強みです。一方で設備投資が大きく、コストもかかる。比率がまだ3%にとどまっているのは、この経済性のハードルが大きいからです。
近年は石油大手や化学メーカーがこぞって参入してきている領域で、伸び代が大きい分野でもあります。
廃プラスチックを焼却して、その熱エネルギーを発電や温水供給に利用する方法です。
日本のリサイクル率がいちばん高い理由は、ここに集約されています。焼却炉に持ち込まれたプラスチックは熱として回収されるので、計算上は「有効利用」にカウントされます。
ここが面白いところで、ヨーロッパやアメリカではサーマルリサイクルを「リサイクル」と呼びません。「エネルギーリカバリー」という別カテゴリの扱いです。
なので、日本の有効利用率89%を欧米の基準で計算し直すと、実質のリサイクル率は約25%まで下がります。
ニュースで「日本のリサイクル率は世界トップクラス」というフレーズを見たら、その内訳がサーマル中心ではないか、いったん確認したほうがいいと思います。業界内では「日本のリサイクル数字は実態と乖離している」という声もあって、近年はマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの比率を上げる動きが加速しています。
3つの方式の特徴をまとめると、こんな整理になります。
| 方式 | 全体に占める比率 | 仕組み | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|---|
| マテリアルリサイクル | 22% | 物理的に粉砕してペレット化 | 設備コストが比較的低い | 汚れ・異物に弱い、品質劣化あり |
| ケミカルリサイクル | 3% | 化学反応で原料に戻す | 複合素材・汚れに強い | 設備投資が大きい、コスト高 |
| サーマルリサイクル | 64% | 焼却して熱回収 | 大量処理が可能 | 国際的にはリサイクルと認められない |
リサイクル業界の求人を見ると、「PIR」「PCR」という言葉が頻繁に出てきます。これも知っていると業界の解像度が一気に上がるキーワードです。
ざっくり言うと、再生プラスチック原料の「出どころ」を表す区分です。
PIR材は工場由来なので素性がはっきりしていて、汚れや異物が少なく、品質も安定しやすい。だから50年以上前から産業分野で使われてきました。
一方のPCR材は、消費者の手を経ているので異物混入や汚れが避けられず、回収・選別・洗浄に手間がかかります。その分、品質を担保するのが難しい。
環境省の資料によると、PCR材の製造量は19.2万トン規模で、PIR材は統計すら整っていない状況です。
業界の課題として明確に挙げられているのは、PCR材の利用拡大。具体的にはこんな問題があります。
世界的にはPCR材の使用率を製品ごとに義務付ける動きが進んでいて、EUなどはすでに具体的な数値目標を設定しています。日本でも自動車向け再生プラスチック市場構築アクションプランが環境省から公表されていて、自動車部品でPCR材を使う流れが本格化しつつあります。
ここを担うリサイクル業者の力量が、これから数年で大きく問われていく。私が業界を取材していて感じるのは、まさにここが業界の成長領域だということです。
業界の構造変化を語るうえで外せないのが、2018年の出来事です。
中国は長らく世界の廃プラスチックの引き取り先でした。2016年の段階で、日本の廃プラスチック輸出量152.7万トンのうち、中国と香港向けが129.5万トン。実に84.8%が中国圏に流れていたんです。
それが2017年7月の方針発表を経て、2018年1月から生活由来の廃プラスチック輸入が禁止。2019年1月には工場ロスを含めた全面禁止に拡大しました。
理由は単純で、品質の低い廃プラが大量に流れ込み、中国国内の環境汚染が深刻化したから。「世界のゴミ箱」を返上する判断だったわけです。
これは日本のリサイクル業界にとっては、本当に大きな転換点でした。輸出先が一気にマレーシア、台湾、ベトナム、タイにシフトしましたが、これらの国も次々と規制を強化していて、結局のところ「国内で処理しきる」体制づくりが避けて通れなくなった。
ここで急に重要性を増したのが、国内のマテリアルリサイクル業者です。
大手化学メーカーが目立つ業界ですが、実は廃プラスチックの回収から選別、ペレット化までを一気通貫で担っているのは、地方の中小メーカーがほとんど。彼らがいなければ、日本の循環型経済は回りません。
技術的にも面白くて、たとえば工場ごとに「うちはPP(ポリプロピレン)が得意」「うちは難リサイクル材のABSに強い」というふうに、各社が独自の処理技術と販路を持っています。素材の知識と現場の経験値が問われる、職人技に近い世界。
中国輸入禁止以降、こうした企業の重要性が一気に高まり、国内設備の増設や海外への再生材輸出など、新しい動きが各社から出てきています。
ここからは少しキャリアの話を。私の本業はキャリアコンサルタントなので、業界を「働く場」として見たときの話を書いておきます。
リサイクル業界の求人は、ここ数年で明らかに増えました。大手求人サイトで「環境・リサイクル」カテゴリを見ると、首都圏だけで数百件単位のポジションが常時掲載されています。
職種の幅も広いです。
化学業界出身者だけでなく、製造業の生産管理経験者や、商社マン、自動車部品出身者など、隣接領域からの転職が増えているのも特徴です。SDGsや脱炭素の文脈で「意味のある仕事がしたい」というモチベーションで業界に入ってくる人もたくさんいます。
業界未経験で入ってくる人が増えたのも、ここ数年の変化です。私が最初にリサイクル業界の担当になった頃は、化学・素材出身者でないと厳しいと言われていました。それが今は、未経験OKの求人もかなり目につきます。背景には、人手不足と、消費財メーカーや自動車メーカーからの再生材調達ニーズの急増があります。
ここからはちょっと持論なんですが、リサイクル業界はとくに中小メーカーが面白い領域だと思っています。
理由はシンプルで、市場規模に対して企業の数が多くなく、ひとり当たりの裁量と影響力が大きいから。たとえば営業職なら、いきなり大手の調達担当と直接やりとりするポジションに就けたりします。技術職なら、再生材の品質改善が会社の競争力に直結するので、現場の判断がそのまま事業に響く。
私が取材で印象に残っているのは、ある中小リサイクラーの開発担当者の言葉です。「大手メーカーの設計者と直接議論して、樹脂の配合を一緒に決められる。こんな経験は前職の大手化学メーカーじゃ絶対できなかった」と笑っていました。会社の規模が小さい分、ひとつのプロジェクトでぐっと深く関われる。これは中小メーカーならではの魅力です。
設備投資も活発で、グローバルリサイクルスタンダード(GRS)のような国際認証を取得する動きも進んでいます。GRSはリサイクル素材のサプライチェーンを第三者が認証する制度で、これを持っているとアパレルや自動車のグローバル企業との取引で有利になります。地方のリサイクラーがGRSを取得して、欧米ブランドのサプライチェーンに食い込んでいくケースも増えてきました。
具体的なイメージを持ちたい人には、群馬県太田市に本社を構え、千葉県市原市にも事業所を持つマテリアルリサイクル企業の事例が分かりやすいです。PIR材とPCR材の両方を扱い、ABSやPP、HIPS、PSなど50種類以上の樹脂を再生してペレット化している会社で、PCR材ではGRS認証も取得しています。実際の求人内容や働き方のイメージは、日本保利化成株式会社の採用ページを見るとつかみやすいと思います。地方ものづくり企業×サステナビリティという、まさに業界の現場の縮図みたいな会社です。
大手志向の人には地味に映るかもしれませんが、私の感覚だと、5年後10年後に「あの時こっちを選んでよかった」と思える人が多い領域です。市場が伸びている業界の中堅企業で、自分の手で動かせる範囲が広い。そういう環境はそう多くないんですよね。
転職を検討するときに見ておきたいポイントもいくつか挙げておきます。
このあたりを採用ページや会社サイトでチェックすると、その会社のポジショニングがかなりクリアに見えてきます。求人票に書かれた給与や福利厚生だけで判断するより、よっぽど本質的な比較ができるはずです。
廃プラスチックの「その後」を知ることは、実はけっこう奥深いテーマです。今回お伝えしたポイントを振り返ります。
普段は意識しないテーマですが、知ってみると意外と「自分の生活と地続きの話」だと感じる人が多いはずです。サステナビリティ系の仕事に興味がある人、ものづくりに関わりたい人、地方の中堅企業の面白さを知りたい人にとっては、業界の入口としてかなり良いタイミングだと思います。
社会的な意義と、自分の働き方の手応えの両方が手に入る業界。そんな選択肢があることを、頭の片隅に置いてもらえたら嬉しいです。
最終更新日 2026年5月13日 by ixsrvn
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